「家庭の法と裁判」(2025年6月号)に掲載された裁判例(東京家庭裁判所 令和4年4月28日決定)をご紹介します。本件は、いわゆる「兵糧攻め」ともいえる行為を続けた配偶者からの離婚請求が棄却された事案です。
1. 事案の概要
本件では、夫(原告)が妻(被告)との離婚を求めて訴えを提起しました。原告は、被告との別居期間が4年6か月を超えていることから、婚姻関係は既に破綻しており、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があると主張しました。しかしその一方で、原告は、別居期間中に婚姻費用分担金の支払を行わず、被告に対して経済的に極めて不利な状況を強いる行動を続けていました。
2. 裁判所の判断
裁判所は、形式的には別居期間が長期に及んでいることから、婚姻関係が破綻していると評価できる点は認めました。しかしながら、その破綻に至った主たる原因は、原告による「兵糧攻め」とも評される身勝手な振る舞いにあると判断しました。すなわち、婚姻費用の支払義務を負いながら、合理的な理由なくこれを履行せず、婚姻関係の修復を困難にした原告は「有責配偶者」に該当するとされました。
3. 有責配偶者からの離婚請求は許されるのか
裁判例上、有責配偶者からの離婚請求は、原則として信義誠実の原則に反し、許されないとされています。本件においても、原告の行為は信義則に反すると評価され、原告からの離婚請求は棄却されました。裁判所は、単に一定期間の別居があれば離婚が認められるわけではなく、別居に至った経緯や、その後の当事者の行動を踏まえた「有責性」の検討が重要であることを明確に示しています。
4. 実務上の示唆
本件裁判例は、離婚を検討するにあたり、婚姻費用の支払義務を軽視することのリスクを強く示唆しています。合理的な理由なく婚姻費用の支払を怠る行為は、将来の離婚請求そのものが認められなくなる可能性を高める、非常にリスクの高い行為であるといえます。まとめ
- 別居期間が長期に及んでいても、当然に離婚が認められるわけではない
- 婚姻関係破綻の原因が一方当事者にある場合、その当事者は有責配偶者と評価される
- 婚姻費用の不払い(兵糧攻め)は、有責性を基礎づける重要な事情となる
