賃料増額請求は、当事者の現実の合意による直近の賃料額が、その後の事情の変更により不相当となった場合に認められています。ここ十数年で不動産価格が大きく値上がりしていることからすると、「現実の合意」時点が過去に遡るほど現在の賃料相場との乖離が生じやすく、他方「現実の合意」時点が現在に近接するほど現在の賃料相場との乖離が生じにくい傾向にあります。このように、「現実の合意」時点をいつにするかが、賃料増額請求の当否を左右する重要な事情になります。
1. 現実の合意時点と賃料増額請求
賃貸借契約の更新時に賃料の変動がある場合には、当事者間で賃料について協議が行われていることが多く、争いは生じにくいといえます。しかし、長年賃料が据え置かれている場合には、この「現実の合意」時点をいつと捉えるべきかが争点になることがあります。当事者間で賃料について何ら協議することもなく、法定更新が繰り返されているような場合には、法定更新時に据え置かれた賃料について、当事者が「現実の合意」をしたとは判断されず、「現実の合意」時点が賃貸借契約締結時まで遡ることもあります。
2. 更新時に賃料協議を行った場合の評価
これに対して、当事者間で賃料について協議した上で、更新時にあえて賃料を据え置いたような場合には、その更新時が「現実の合意」時点と評価される可能性が高くなります。この場合、現実の合意時点が現在に近いため、事情の変動は小さいと評価され、賃料増額請求が認められない可能性もあります。
3. 賃料増額請求が認められる可能性
賃貸借契約締結時から一度も賃料の協議を行っておらず、長年にわたり賃料が据え置かれている場合には、事情の変動が大きいと評価され、賃料増額請求が認められる可能性は十分にあります。一方で、更新時に賃料協議を行った上で賃料が据え置かれている場合には、事情の変動が小さいとして、賃料増額請求が認められない可能性もあります。
4. 実務上の注意点
賃料増額請求をご検討の方は、更新時に安易に賃料を据え置くのではなく、賃料増額請求権を行使するかどうかを慎重に検討する必要があります。他方で、将来的に賃料増額請求権を行使されるリスクに備えたい方は、更新時に賃料協議を行うことが有効です。
なお、当事者間で賃料協議が整わない場合であっても、賃借人は賃貸人に対して従前賃料の支払義務を負うとするのが裁判例です。そのため、賃料増額請求後の賃料が支払われないことを理由として、賃貸借契約を解除することはできない点に注意する必要があります。
